読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

森田雄三の演劇ワークショップ神戸のフツーの人たち公演『どケチのど愛』に参加して④

公演初日は、朝十時から稽古だった。朝七時半の電車に乗るために七時に家を出た。

昨日の稽古で、最後にソウルフラワーユニオンの「満月の夕」を歌って終わることを知って、動画を漁ったら、阪神淡路大震災直後の様子が映っていたので何度も何度も見て何度も何度も歌を聴いて、歌った。夜中に。

しばらくすると、二階で眠る家族から「もう少し音を下げてください」とさすがにメールで言われた深夜二時。緊張で脳が興奮して眠れず、明け方近くまで延々と満月の夕を聞き歌ってやっと寝た。

私が知っている震災は焼け跡ではなく、津波に飲み込まれた後の泥地だ。

 

あの日、右ひじ骨折で入院していた私は、家にはないテレビを病室で見るのをとても楽しみにしていて、特に徹子の部屋電気グルーヴピエール瀧が出ると知っていたのでかなりワクワクしながらテレビカードを購入して準備していた。

だけど、そのテレビで見たのは、育った東北の見なれた場所が、友達の実家付近が、どす黒い水の壁にひたすら飲み込まれていく映像だった。淡々と何にも屈せずにひたすら田んぼやトラックや家や人や犬を塗りつぶしていく泥水を、ずーっと、じーっと見ていた。目をそらしたかったけど、衝撃が強すぎて、私も飲み込まれたかのように画面に見入っていた。

 

焼け跡を想う。冷たくて乾いた風が、吹きっさらしただろう。

焚き火を囲み、とてつもない寂しさとホッとする温かさと底のない不安と力強さと喋ったろう。

 

私は阪神大震災を、ほとんど知らない。そんな私が今回の公演に立っていいものか、何度か自問した。関西弁でもない。でも私みたいなよそ者も、きっと一緒に、一瞬で亡くなったり生き残ったりした中に居ただろう。

 

私と池本さんのシーンで描くものは何なんだろう?

池本さんは震えながら保険金の話をする

それを聞いてるけど聞いてない私は自分が見た不思議な体験のことを話す

 

森田さん「こういう人たちってのは、震災で真っ先に、潰されちゃうのね、繊細なわけ。」

 

なるほど。

冒頭の山下さんが考えたセリフを自分も言うことになっているのに、いつまでたっても口に馴染まない。

自分が「セリフを覚えられない人」だってこと、この時まで知らなかった。

 

初日、全部通しで、ざっとリハーサル。

照明、暗転、入り方、切り替わり方、立ち位置、終わり方。

本筋に出る、妙島さんは、今日から稽古入りだ。

すごい勢いで流れを把握して、すごい速さでそのシーンがグングン仕上がっていく。

 

絶妙な配役で、絶妙な言い回しで、絶妙なやり取りが続く。

舞台の上に出ているのに思わず見入ってしまう。

でもまだ全部のちゃんとした通しは、本番まで一度も見られないまま、リハーサルは終わる。

 

不安しかない。自信なんて一ミリもない。

セリフも、その時々の立ち位置も、うろ覚えだ。

それでも、もう、今から退くわけにはいかない。

怖い。

 

お客さんが入る。

 

とにかく自分の中の自己否定とか緊張とかを体の中から追い出すために思いのままに体を動かす。声を出す。体の隅々にまで意識が届くように意図する。そういう技術がある。たまたま私は習ったことがあったからそれを試した。

 

本番。

みんなの動きに言葉にいちいち釘付けになる。

今まで見たことのなかったものが湯気のように立ち上る。

私も?この中にいて順番が来る。

はっきり言って、バンジージャンプだ。

しかも目隠しして、どこだか分からない先に、身を預けるようにして、一歩出る。

 

正直、自分のことを、何も覚えていない。

私がなんて言ったのか、全く覚えていない。

照明の中で、真っ白になる。

本当に、頭の中も目の前も、真っ白だ。

 

ただ、神様って言っちゃったのは覚えていた。

一瞬、戸惑って、エイ、と放ったから。

 

最後の満月の夕は一緒に歌った。何回も見たあの焼け跡を包むようにおどす風に吹かれて、あの歌で、うっかり、ようやく、泣いちゃった人だった、私。

 

他の演劇公演のことは知らないけれど、森田さんのこのワークショップでは、本番の直後に、控え室で全員が輪になって、講評というかダメ出しというか、森田さんや清子さんやスタッフやお客さんが、今のがどうだったかってことを即座に解体して、解説というか、どこがどう良くてどこがどうダメか、を率直に参加者全員に話してくれる。

 

前回も思ったことだけど、これがとても新鮮だった。

講評なんて、受験生や大学生だった頃のデッサンとか課題以来だ。

しかも直後に。

さっきまでワーワーやってて、泣いて終わって、ふへーと息つく間もなく。

すごいことだなあと思う。

ホヤホヤのまま、感想というか出来がどうだったのかを聞けるって、ここ10年であまり無かったことだ。

 

ただ「神さま」って言っちゃダメなのね、わかる?

それを言わないで、描こうとしてることがあるのね、わかる?

 

頭は真っ白だったけど、それを言っちゃあおしまいよって言葉だったというのは、放つ時に一瞬戸惑ったから自分でも、わかったので、明日は言わない。

 

ヘトヘトになってヨレヨレになって、珍しくすんごい感じの悪い店員のいる中華屋で美味しいもの食べて、アクアハウス神戸の温泉に入って仮眠室でぐっすり眠った。

 

明日はもっと大きなホールで、公演だ。

 


満月の夕(07)